1. 量子幾何テンソルの正式な定義
パラメータ空間 λ=(λ1,…,λm) 上で滑らかに変化する純粋状態
∣ψ(λ)⟩ に対し、その 量子幾何テンソル(Quantum Geometric Tensor, QGT)は
Qij(λ)=⟨∂iψ∣∂jψ⟩−⟨∂iψ∣ψ⟩⟨ψ∣∂jψ⟩,∂i≡∂λi∂.
1.1 エルミート分解
Qij は generally 複素対称テンソルで、
Qij=gij+2iΩij と分解できる:
-
量子計量テンソル(実部)
gij(λ)=ℜ[Qij(λ)]
-
ベリー曲率(虚部)
Ωij(λ)=2ℑ[Qij(λ)]
2. 量子計量テンソルと測定感度
微小パラメータ変化 dλ に対する距離要素は
ds2=gij(λ)dλidλj,
すなわち gij は「どの方向に区別しやすいか」を定量化する。
量子推定理論では 量子フィッシャー情報量 が
IQ,ij=4gij
となり、クラメール・ラオ限界
Var(λ^i)≥(IQ−1)ii を与える。
3. ベリー曲率と位相応答
Berry 接続 Ai(λ)=i⟨ψ∣∂iψ⟩ を用いると、
Ωij=∂iAj−∂jAi=2ℑ[⟨∂iψ∣∂jψ⟩].
- 位相の積分
γ=∮CAidλi
が Berry 位相。
- 曲率の積分
∫S2Ωijdλi∧dλj
がトポロジカル不変量(Chern 数)となり、量子ホール効果などを支配。
4. 二準位系(スピン½)での具体例
磁場 B=(Bx,By,Bz) による Zeeman ハミルトニアン
H=−2ℏγB⋅σ の基底状態を取り、
球面座標 (θ,ϕ) を用いる:
∣ψ(θ,ϕ)⟩=cos2θ∣↑⟩+eiϕsin2θ∣↓⟩.
計算すると
gθθ=41,gϕϕ=41sin2θ,Ωθϕ=21sinθ.
- gθθ, gϕϕ は Bloch 球面の半径 1/2 の球面計量を与える。
- Ωθϕ は 単位磁荷 のベリー曲率で、全積分 ∫Ω=2π は Chern 数 =1。
5. 物理的インプリケーション
幾何量 | 意味 | 物理的解釈例 |
---|
gij | 距離要素(リーマン計量) | 推定精度,量子相転移の臨界指標 |
Ωij | 曲率(外場に対する“ねじれ”) | ホール伝導度,トポロジカル不変量 |
6. まとめと次回予告
- 量子幾何テンソル Qij は,その実部=量子計量テンソル,虚部=ベリー曲率という 2 in 1 の構造を持つ。
- 量子計量テンソルは量子フィッシャー情報と直接結び付き,クラメール・ラオ限界を決定する。
- ベリー曲率は位相応答やトポロジカル不変量を司る。
次回(第3回)は,この幾何量が 固体のバンド構造 や トポロジカル物質 にどう現れるかを詳しく探ります。